読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ68 – 孤独なエスパーと大根女優

「ぼくはここでは孤独な立場なんだよ。」
タンさんは口癖のように言う。

部下をまとめる立場の人間とは、えてしてそんなものかもしれない。
タンさんが外国人だからとかそういう問題ではないのだろう。
杏子はそう思った。

タンさんの秘書である杏子も同じように孤独なのだろうか?
必ずしもそうとは言えない。
確かに、タンさんのことで付きっきりで孤独な作業が多い。
その一方で杏子のデスクにはなぜか人が寄ってくる。
杏子のデスクの前には椅子が2脚ある。
一応来客用とはなっているが、現実は来客がそこに腰かけることなどなく
ある意味社員の休憩スペースのようなものだった。
特に進藤さんやかおりさん、ついでに五島さんも
おしゃべりしては帰っていく。
もしかしたら、何らかの理由でタンさんの考えを
秘書である杏子から探ろうとしているのかもしれない。

杏子はいつも思う。
みんな忘れている。
その場所で杏子にだけ聞いてもらっているつもりの
タンさんに関する話題は実はタンさん本人に筒抜けなのだ。
杏子のデスクはタンさんのオフィスの入り口辺りに位置している。
聞こえないわけがない。

しかも、タンさんも来日してから早2年。
社内では英語しか話さないが、実は日本語はものすごく
上達しているのだ。
特にヒアリングはもしかしたら完璧かもしれない。
それもそのはず、タンさんは連日連夜の仕事関係の’飲めや歌えや’で
実戦的日本語特訓を受けているのだ。

そのことを一番よく知っているのは杏子以外では営業職の面々だ。
営業職は’飲めや歌えや’に同席する機会が多いから当然だ。
確かに進藤さんも営業だが、この人は学習能力がない。
いまだに杏子に月末のレポートの翻訳を頼み込んで来るほどだから。
杏子はそのたび心の中で進藤さんを軽くののしる。

以前のレポートを見ながら、自力でみてやってみようと
思わないのか⁉

おしゃべりの途中で、タンさんの話が出ると杏子は慌ててしまう。
ひそひそ話でもしないかぎり、絶対に支社長室の中にいる
タンさんに聞こえているはずなのだ。
タンさんだって常に杏子たちの会話を聞こうと
思っているわけではないだろう。
ただ、自分の話題が出ると聞き耳を立てているのが何となく分かる。
しかもタンさんの話題の80%は悪口に近いものだった。
その度、杏子は自分からわざと声を潜めて、
相手に向かって支社長室の方をゆび指して注意を促していた。

どんなに耳の遠くなったお年寄りでも自分の悪口だけはちゃんと
聞こえるという。
タンさんも自分の悪口ははっきりと聞こえてしまうらしい。
かおりさんは結構ワイルドな性格なので
杏子が声を潜めても意に介さず

「どうせ日本語なんかわかっちゃいないよ」

と杏子がギクリとするようなことを言う。

進藤さんの場合は、何も考えてない。
いや、覚えてないだけ。
どっちだろう?
どっちでもいい。

杏子の苦難は彼らが杏子の元を去ってから数分の間にやってくる。
支社長室からお呼びがかかるのだ。

「ナカノさん」

ほら来た!

「はい なんですか?」

とすぐにタンさんのデスクへ飛んで行く。

「なんか今僕の話してたよね。何が不満なんだろうね。」

そう言われても、杏子は何と答えていいのか分からない。

「私にもよくわからないです。一度ご本人と面談されてはどうですか。」

ずるいようだがこれが杏子の逃げる道だ。
杏子がタンさんの悪口を言ってるわけではない。
それならば、キャッチしたボールはとりあえず
投げてきた相手に投げ返しておくのが一番いい。
そのボールをご自身からタンさんに直接投げてもらおうというわけだ。

ボスの行動パターンもちょっとわかってきた秘書生活2年の女。
ブラックコーヒーが似合う女。
それが私よ!

一人でニンマリする自画自賛の女、それが杏子だ。

そんな杏子も慌てた時があった。

ある時、タンさんがしばらく席をはずしていたので 
その隙にトイレに行こうとドア近くまで行くと、
ドアがまるで自動ドアのようにこっちに向かって開いた。
ぬっと出現したのは上村さんだった。
ちょうど彼が中に入ろうとしたタイミングだったのだ。

「あ、ごめんね。」
そう言って中に入っていったんドアと締めたあと
上村さんは杏子のほうに顔を近づけ話しかけてきた。

「今このフロアのトイレが混んでたから、
下の2階のトイレに行ったんですよ。
そしたらタンさんがいて。
鏡の前で櫛で髪をとかしてました。
前も見たことあるから、あの人いつも2階のトイレに
行ってるみたいです。
このフロアのトイレで遭遇したこと一度もないです。
スタッフの誰かに会うと気まずいんでしょうかねぇ。」

「へぇー。
タンさんも変なこと気にするんだね。ふふっ。」

二人で微笑みあって一息ついた瞬間、また
ドアがこっち向きに開いた。
タンさんだった。

杏子も上村さんも内心慌てはしたがあえてにこやかに、

「あ、そうなんだー
よかったね。解決して。」

わけのわからないセリフをまず杏子が振る。

そして、

「そうなんですよ。
じゃあ。」
なんてさらにわけのわからないセリフで自分の席に戻って行く
上村さん。

タンさんは不気味な作り笑いで、

「今僕のこと言ってなかった?
なに言っていたの?」

と杏子に聞いてくる。

杏子はへらへらしながら、

「ちがいますー。上村さんの仕事のことですよ。」
と作り笑いで返した。

「ほんとかなぁー
なんて言ってたの。
おしえてよ。」

タンさんはしつこかった。

ば、ばれてる…

「ちがいますよ。ちょっとトイレに行ってきます。」

杏子はその場を逃れた。

トイレで杏子は考えた。

あの人本当に感がいい。
しかもしつこい。
自分の話題だと気が付いている。

その後、デスクに戻った杏子は
その日はそれから仕事を終えて帰るまで
タンさんに声をかけられるたびに
小さくギクッとしていた。

もっとも、タンさんの方はすっかり仕事モードに戻っており
ドアの側での出来事には2度と触れなかった。

自宅に戻り、鏡をのぞき込みながら歯磨きしていた杏子は
ふと思った。

なんであんなに確信が持てるんだろう?
タンさんの名前なんて会話の最初に一回しか出てない。
タンさんがドアに手をかけた時には、どう考えても普通の
世間話になっていた。
聞こえているはずがないじゃないか。
自分と上村さんの小芝居もそんなに学芸会じゃなかったはずだ。
f:id:Toyohisa:20150720222222j:plain
もしかしたら、第六感以上の特別な能力を持っているのかもしれない。
あり得る。
それとも、透明マントでも持ってるのか。
なくはない。
瞬間移動か。
あなどれない。

結論、気をつけなければ!

杏子は急に自分の演技力に不安を覚えた。
歯ブラシを口にくわえたまま、
口の端っこを泡でぶくぶくさせながら、
いろんな真面目な表情を作っては研究してみた。
5分ほどして我に返った杏子は慌てて口をすすいでさっさと寝ることにした。
f:id:Toyohisa:20150720222242j:plain
分かり切ったことだが、杏子は女優ではないのだ。

ブラウン オーラルB 電動歯ブラシ プラックコントロール DB4510NE

ブラウン オーラルB 電動歯ブラシ プラックコントロール DB4510NE

じゃがりこメラミンカップ(サラダ)

じゃがりこメラミンカップ(サラダ)