どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ66 – 我の強い蛾な女

かおりさんのお肌がキラキラ輝いている。
香奈ちゃんの不幸が何よりの美容液なのかもしれない。
いつも杏子が思うことだ。
徳永部長と香奈ちゃんの蜜月があっけなく終わったようだ。
杏子が尋ねなくても勝手に情報をくれるのがかおりさんだ。

「あの子さぁ、前は徳永部長からの電話来ると急に女子高生みたいな
声出してさぁ。露骨なんだよね。それが今朝徳永部長からの電話、たまたま私が取って
当然香奈にまわそうとするじゃない。そしたら、徳永部長があいつに回さないでくれって言うのよ。空席状況私に調べてほしいって。こりゃ何かあったなってわかるじゃない。何があったんだろうね。ふふっ。」

最後のふふっは弾んだ感じだった。

今のところ破局の理由はかおりさんにも分からないらしい。
破局と言っても別に恋愛関係だったわけではない。
杏子も気にはなるが、どうしても知りたいほどのことではなかった。

そのうち、かおりさんの執念の調査によって理由が判明し、
杏子の耳にもは勝手に入ってくることだろう。
いつものことだ。

杏子は正直言って別に興味はなかった。
どうせ香奈ちゃんが何か徳川部長の気分を害するようなことを
言ったのだろうと思った。
香奈ちゃんのいつものパターンだ。
自分にとって得な相手とは急激に親しくなる。
そして、ある日突然、険悪になっている。
そうやって友達をなくしていくような女だった。

なのに、
「わかったら教えてね。知りたーい。」
なんて調子のいいことを言ってしまう杏子。

不思議なもので、時に一番無欲な人間に他人が喉から手が出るほど
欲しいものが与えられる時がある。
杏子めがけて理由が向こうから飛び込んできた。
しかもその日のうちにだった。

徳川部長からタンさんに電話がかかってきたのはお昼の休憩時間直前だった。
タンさんはランチの約束があってもう出かけてしまっていた。
杏子はタンさんが戻ってきたら折り返し電話すると言って受話器を置こうとした。
ところが、徳川部長が不意に言った言葉でその行動は遮られた。
「あの女どうしてる?」
杏子としたことが、あの女という表現だけで誰のことかわかり返事してしまった。
「もうすぐ、お昼休みだと思いますよ。」
「どうしたんですか?あの女なんて。なんだか聞き捨てならない発言ですね。」
自分の心とは裏腹に余計な質問をしてしまった杏子。
それは徳川部長が次のステップに進む手頃な踏み台になってしまった。
徳川部長はここぞとばかり、自分の香奈ちゃんに対する怒りを
電話口で一気に杏子にぶちまけた。

「あの女さーどういう教育受けてるの?
人付き合いの仕方とか礼儀とか知らないのかね。
俺は一応お客様だよね?」

杏子はおっしゃる通りですと電話口で頷くしかなかった。
こうして徳川部長の愚痴の口火は切られた。
杏子はさっさと電話を終えてランチに出たかった。
気が付くと12時を10分過ぎていた。
12時半までには電話を終わらせたい。
切なく願う杏子。

要は香奈ちゃんが以前行ってみたいと言っていたコンサートのチケットが
たまたま手に入った徳川部長が香奈ちゃんに電話した。
香奈ちゃんは大喜びした。
先週木曜日の話だ。
週末のコンサートだったが、香奈ちゃんは金曜日有給休暇を取っていた。
家の用事で有給休暇を取って夕方まで外出だった。
徳川部長は以前香奈ちゃんと飲みに行った時、夜遅くなったので
タクシーで自宅まで送ってあげたことがあった。
お互いの自宅がそんなに遠くではなかったらしい。
そんなわけで徳川部長は夜チケットを届けてあげることにした。
香奈ちゃんは実家暮らしで両親と兄弟も一緒に住んでいる。

徳永部長は金曜日ちょっとした仕事上のトラブルで会社を出るのが遅くなった。
それでも香奈ちゃんの家まで車でチケットを届けに行った。
急いで行ったが、香奈ちゃんの家に着いたのは夜の10時半だった。
徳川部長にすれば、香奈ちゃんはきっと恐縮しながらも感激するだろうと想像していた。
インターホンを鳴らすと香奈ちゃん本人が出た。
ところが、いつもとは違う低い声だったそうだ。
そして、香奈ちゃんは恩知らずな一言を放ったのだ。

「遅れるならちゃんと言っててくださいよ。私シャワーも浴びずに待ってたんですよ!」

なんて女だ。
徳川部長ごめんなさい。

杏子は自分のことではないのに徳川部長にお詫びの言葉を言ってしまった。
せっかく忙しい中、徳川部長の好意で自宅までチケットを届けてくれたのに。
仕事関係のお偉いさんなのに。
よく食事もご馳走になっているというのに。
なんでそんな言葉が出るのだろう。
ちゃんといつものように猫かぶっていればいいだけなのに。

杏子の頭の中で香奈ちゃんへの非難がぐるぐる巡っていた。
人間ってうっかり本性が出るものだ。

かくしてちょっとだけ開いたドアの隙間から香奈ちゃんに
チケットを渡した徳川部長は最高に気分の悪い金曜日の夜を過ごした。
これで徳川部長と香奈ちゃんとの蜜月は完璧に終わった。

杏子はどうして香奈ちゃんがそんな失礼なことを言ったのか理解できなかった。
ソラリア航空との縁まで切ろうとしなかった徳川部長に感謝したいくらいだった。

徳川部長は杏子に事件の概要を語りながら怒りがぶり返してきたのだろう。
香奈ちゃんをあの女呼ばわりした上で、あらゆる罵詈雑言を繰り返した。

杏子は何度か締めの言葉を言って電話を終わらせようとしたが、ことごとく失敗に終わった。

そうこうしているうちに昼休憩に出かけた同僚が次々に戻ってきた。
1時を過ぎていた。
杏子は1時間以上徳川部長のお話を拝聴したわけだ。
もう、いっそのこと夕方までずっと電話出もしちゃおうかとやけになる杏子。

そしてさらに30分。
その間杏子は、

「そうなんですか。」
「それは申し訳ございません。」

の2つの台詞を交互に使った。

徳川部長はそのたび

「あなたのせいじゃないよ。」
「あの女が最低なだけだよ。」
と言っていた。

堂々巡りでなかなか終わらない。
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なのに最後はあっけなかった。

徳川部長にお客様が来たらしく、

「あ、ごめんね。お客様来たからこれで切るね。長くなってごめんね。」

といきなり強制終了された。

杏子はやっと自由になれた。

杏子のお腹がグニューッと大きな音を立てた。
その音ほどの空腹感を杏子は感じることができなくなっていた。
疲れ果てていたのだ。

杏子はタンさんのデスクにランチから戻るのが遅くなるかもしれない旨
メモ書きで残し、とりあえずオフィスを出た。

今聞いた話をかおりさんに話すべきだろうか?
別にいいや。

蝶々のふりをした蛾女め。
これからは、レディ ガ と呼んでやる!
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