どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ64 – 持ち上げられて杏子

杏子は久しぶりに髪型を変えてみたくなった。
大学を卒業してから、長さには変化はあるものの、基本同じような髪型で通してきた。
セミロングのボブスタイルだ。
少なくとも杏子にとっては、この髪形が一番楽なのだ。
信じるものは救われる。
したがって、杏子も救われていた。
シャンプーしてドライヤーで乾かせばほぼまとまる。
スタイリング剤もヘアスプレーも何もいらない。
杏子はくせ毛でもない。
ゆえに、朝の貴重な時間を髪型で無駄にじたばたすることはないのが自慢だった。
人に自慢したことはなかったので、正確には、内心自慢としておこう。
そんな杏子でも、漠然とずっと同じ髪型ではつまらないと思わないこともなかった。
とある週末、カットだけのつもりで行きつけの美容院へ行った。
いつもの担当の北原さんが、鏡越しに杏子の後ろでささやいた。
「中野さん、たまにはパーマとかで毛先に変化を加えてみませんか?」
「私に似あうかなぁ。」
「今、キャンペーン中なんですよ。初めてのパーマは39%引きなんです。
サンキュー キャンペーン。ふふっ。」
「なにそれ!笑える。でも、今の髪型楽だし。」
「絶対似合うと思いますよ。サイドを短めにして毛先をおどらせて。ねっ?」
「うーん。どうしようかなぁ。」

結局、杏子は北原さんに天高く持ち上げられ、調子に乗って乗せられた。

「どうです?」
すべてが終わり、北原さんに感想を聞かれた杏子は、すでに冷静な判断が出来なくなっていた。
始終、北原さんに、
「髪の毛つやつや! 可愛い!わぁ、思った通り、似あってるぅ!」
と散々いわれて、美容院の高い天井まで届くくらい舞い上がっていた。
これは洗脳というものかもしれない。
杏子は満面の笑顔で鏡を見ながら、
「いい感じかも。ありがとう!」
と言っていた。
気分よく会計を済ませ、外に出て、商店街のどこかの店のガラスにうつった自分をチラ見したあたりから、杏子は魔法が解けたように冷静になった。
この髪形私に似合ってるのかしら?
という疑問がわいてきた。
杏子は急いで家に帰り、洗面台の鏡をのぞいてみた。
どっかの、おばちゃんみたい。
それがシラフの杏子の新しい髪型についての感想だった。
後悔とおだてに弱い自分への自己嫌悪でいっぱいになった。

「パーマが取れやすいですから、せめて今日だけは自宅で髪洗わないでくださいね。」
確か、北原さんはそう言った。
なので、その晩杏子はしっかりシャンプーした。
ドライヤーとヘアブラシで一生懸命髪の毛を引っ張って伸ばした。
悲しいかな日本のパーマ技術を前にして、杏子は、もとい、杏子の髪は無力だった。
一段と変な感じになったことは否めなかった。
明日の朝、会社に行く前に整えよう。
杏子は疲れ果て、その晩はぐっすり寝た。

朝起きて、ビジュアル的に10歳は老け込んだ自分を鏡の中に見て、改めて凹んだ。
どんなに頑張っても、どうにもならない。
こんな暗い気持ちで出社するのは初めてだ。

こうして、不本意なヘアスタイルとなってしまった杏子の一週間が始まった。

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