どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ63 - そのツボは別のツボですって!

実は、杏子は悩んでいた。
外国語で冗談を言われても何が面白いんだか全くわからないことがしょっちゅうあるのだ。
笑いのツボが分からないながらも、とりあえず笑ってごまかしてきた。
そういう時の杏子の目はきっとあちこち泳いでいるはずだ。
そして、感情のこもっていない笑い声を発しながら、何が面白いポイントなのだろうと無駄に脳みそを動かしているのだ。
どんなに考えても分かるはずがない。

タンさんのジョークは特に笑えない。
でも、例によって、とりあえず笑っておく。
なぜなら、杏子はタンさんの秘書なのだ。
ボスをいい気分にさせて、さっさと仕事を片付けていただくことを最優先するドライな感情の持ち主杏子。
タンさん自身は、わがジョークに身をよじって笑っている。
自画自賛とはこういう事だ。
一緒に笑う杏子の笑いは演技以外の何物でもない。
そして考えた。

笑いのツボって国民性と関係があるのだろうか?

英語の堪能な田中さんは、タンさんのジョークに対していつも派手に笑っている。
杏子は羨ましかった。
杏子はこっそり田中さんに聞いてみた。
「田中さん、私何が面白いのか全くわかりません。情けないです。」
「俺もわかんねぇ。あの外人が身をよじって笑ってるからな。とりあえず笑っときゃいいんだよ。」
田中さんはさらりと言い放った。
杏子の英語力のせいではないらしい。

ある日タンさんが、
「ナカノサン、明日タイワールドエアの支社長とランチに行くんだけど、向こうが秘書を連れてくるっていうから、君も来てくれるかな? ヘルトンホテルのフレンチを予約するから。」
と杏子に声をかけた。
「え、いいんですか!もちろん、喜んで。」
お昼から豪華にフレンチコースなんて、杏子に断る理由があるはずがない。
いつも以上に仕事にはりきる杏子。
タイワールドエアのワンチャイ支社長はとても温厚な人物だ。
おそらく年齢はタンさんよりすこし上だと思う。
話す英語もとてもゆっくりで杏子にはとてもわかりやすいものだった。
秘書のパンチットさんは、何度か電話で話したことがある。
彼女は日本人と結婚しているので、日本語も結構話せる。
あまり緊張しなくていい相手だった。
杏子はそれまでも何度か、他の航空会社の支社長との会食でタンさんに同行したことがあった。
そこで繰り広げられる会話の80%がゴルフと言っても過言ではなかった。
タンさんもワンチャイさんもゴルフ大好きだ。
東京にある外国航空会社の支社長は大使のお供でゴルフというのが年に何回かある。
自分がいかに大変な思いをしているかなど話して大いに盛り上がるのだ。
もちろんそんな話をしつつもお互いの業績や今後の営業戦略など探りあうことも忘れてはいない。

豪華フレンチコースのランチでも、最初は他社の噂話などから始まったが、メインからデザートあたりまではやはりゴルフの話だった。
つい先日、タンさんが大使に誘われて本国からの観光大臣と一緒にラウンドした時の話になった。
日本に来た最初のころは、大使よりいいスコアで嫌味を言われたとか、アドバイスをしたら
疎ましがられていたとタンさんは話した。
どころが、最近ははうまく立ち回ることを覚えたらしい。
こっそりと先回りして相手のボールをいい場所にちょこっと転がすとか言っている。
要するにズルをしたのだ。
タンさんにとっては、大使や大臣の損ねることが何よりも怖い。
いかに気分よく終わらせるかに全神経を使うのだ。
そこで、タンさんは鼻の穴を広げて自慢げに言った。
「最近は、僕もコツが分かってね。バンカーなんかに大使のボールが入るじゃない?すると急いで先に言って、手でボールを拾って、グリーンの上に戻したりするんだよ。」
何を自慢してるんだか…
杏子はあきれていた。
「普通はバンカーだとサンドウェッジで打つじゃない?でも、この場合はね。」
タンさん、すでに自分が落ちを言う前から笑ってる。
今からオチを聞かされる。
杏子はやけに緊張した。
すると、タンさんは半分笑いながら、
「ハンドウェッジっていうんだよ。ひゃっ ひゃっ ひゃっ!」
と一人で盛り上がった。
ワンチャイさん、パンチットさんがどっかーんと笑う。
つられて杏子も笑う。
確かに、座布団2枚くらいあげてもいいジョークだ。
でも、大爆笑するくらいのネタだろうか?
杏子の中の冷めた部分がそうささやいた。
だめ、だめ!
せっかくの数少ない杏子の理解の範囲内のジョークだ。
ここで笑わずに、どこで笑う!
これまでのタンさんの発したジョークの中では一番おもしろいかもしれない。
ただ、タンさんがひーひー言いながら、笑いを止めようとしている姿を見ると、どこか冷めた部分もある杏子だった。

食事を終えて、ホテルのロビーでワンチャイさんたちと別れて、丸さんが
車で迎えに来るのを待つ間、タンさんは、
「ハンドウェッジって面白いだろ?」
と杏子に対して自分の近年まれに見る傑作ジョークの念押しをした。
そんなタンさんに思わず白い眼を向けそうになったが踏みとどまった。
タンさんは、以前、杏子の面白い話をパクったことがあった。
このネタもどこかで聞いた話じゃないの?
杏子は頭に浮かんだ疑惑を慌てて振り払った。
「そうですね。あれは笑えました。今思い出しても笑がこみ上げてきます。ははっ!」
とりあえず、ボスをもち上げておくことが大事だ。

丸さんの車に乗ってから、今度は丸さんにまた同じジョークを聞かせるタンさん。
これはかなりしつこい。
全く面白くないわけではないので、もちろん丸さんも笑ってくれた。

二人の会話をBGMにボーっとしていた杏子は、何の脈絡もなく、あることを思い出した。
パンチットさんの名前は杏子だけではなく、かなりの人が聞き間違いをするらしい。
田中さんにワンチャイさんの秘書も一緒に食事をすることを今朝話した時のことだ。
「そう言えば、あの秘書の名前、パンチットっていうだろ?だいぶん前にどっかで会ったことあるんだよ。挨拶してさ。あいつ発音悪すぎるよな!俺うっかり違う風に聞こえちゃって。慌てたよ。」
「田中さん、それ以上は言わないで!」
杏子は田中さんの品格を守ってあげようと思った。
「私も同じこと考えましたから。最初。」
田中さんは嬉しそうに、
「そっか、杏子ちゃんも好きだねぇ。」
と言った。
「なんですかぁ。その、わけのわかんない突っ込みは!」
大笑いしながら田中さんとの会話が終わった。
思い出してしまった。
杏子は、急に笑がこみ上げて、ちょっとだけ吹き出してしまった。
横に座っていたタンさんが、やけに誇らしげに杏子を見た気がする。

杏子は心の中で叫んだ。
そうじゃないって!
たぶん、そうは思ってないんだろうな。

そんなにまで面白いジョークじゃなかったから!
もちろん、秘書としてそんなことは口が裂けても言わない杏子だった。

アメリカンジョーク111連発

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