どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ54 - 地球上に一つだけのバッグ

人間誰だって勘違いする時はある。
その結果、
なんであんなこと言ってしまったんだろう?
とか。
どうしてそう考えてしまったんだろう?
とか後から思い悩んでしまう。
でも、記憶の糸をたどると大抵はその伏線があったりするものだ。
そして何とか自己完結させる。

残念かどうかはわからないが、それは沙羅ちゃんにはあてはまらない。

かおりさんがお休みの日があった。
当然、カウンターは香奈ちゃんと沙羅ちゃんの二人勤務になる。
杏子は、タンさんに頼まれて、大切なお客様の予約・シートアサインなどを確認しにカウンターへと出向いた。
あいにく、香奈ちゃんは席を外していた。
沙羅ちゃんはと言えば、手に持った紙切れを五島さんに見せながら、何かを真剣に訴えていた。
杏子は、何か事件かと心配になって、沙羅ちゃんに何があったのか尋ねた。
五島さんはなんだか呆れた様子にも見えた。
沙羅ちゃんは、
「あ、杏子さん。これ見てください。この小切手。」
とすがるような目をして言った。
杏子が見ても何の変哲もない小切手だ。
「これがどうしたの?」
杏子は冷たく返した。
すると、沙羅ちゃんは、
「これ血が付いてます。なんか事件かもしれません。」
杏子は口を開きはしたのだが言葉が出て来ない。
唖然と言うやつだ。
五島さんは、
「だからね、これ朱肉だって。なんかの拍子にうっかり付いちゃったんじゃないの?」
と言ったが、彼がそう言い終わる前に、沙羅ちゃんが、
「違いますって!絶対血ですよ。ねぇ杏子さん?」
と口をはさむ。
杏子は思った。
何が彼女をそう思いこませるのか…
一体彼女は何を訴えたいのか…
杏子は意を決して、沙羅ちゃんの尋問を始めた。
「ねぇ、仮に血だとしても、この小切手に問題はないよね?」
「事件だとしたら、何? この旅行代理店で殺傷事件でも起きてるっていうの?」
「百歩譲ってそうだとしてら、今頃大騒ぎになってるよ。持ってきた人の様子はいつもと変わらなかったんでしょう?」
沙羅ちゃん黙ったまま。
「それとも、もし、何かで怪我してその血がこの小切手についたとしたて、作り直す時間がなかったとしたら、たぶん、こんな理由でこんなことになりましたって説明しながら謝って渡すんじゃない?」
「沙羅ちゃんの中ではどんなストーリーが展開してるのかな?」
ここまで杏子が言ったところで、
「そう言われればそうですよね。そんなことありえないですよね。私、なんで血なんて思ったんだろう。お騒がせしてすみません。」
気持ちの切り替えはかなり早いと見た。
しれっと 自分の主張を取り消した沙羅ちゃん。

なんでかは私が知りたいわ!
杏子は心で思いながら、ニコッと笑ってあげた。
こいつは異星人だ。
常人には思いつかないことを言う。
聞けば話が長くなる。
そんなことを考えている杏子の傍らを、五島さんがニヤッと笑いながらバックオフィスに戻っていった。
名取さんの今の件話すのだろうか?
杏子は名取さんのリアクションには若干興味があった。
とりあえずは、一件落着でやっと本題に入れた。
要件を済ませて、タンさんに報告し、自分の席に戻った杏子は、
じっくりと沙羅ちゃんの発言の原因を考えようとした。
5W1H方式でたどってみた。
Who(誰が) What(何を) When(いつ) Where(どこで) Why(なぜ)したのか。
さらには、How(どのように)したのか。

旅行代理店のスタッフが・
小切手を・
今日・
カウンターで・
なぜ?
なぜ?
なぜ?
だめだ、無理だ。
沙羅ちゃんワールドは説明不能だ。
やめた。やめた。
考えるだけ無駄だ。
沙羅ちゃんは沙羅ちゃん。
それが結論だった。

不思議なことに、沙羅ちゃんは杏子をとても慕っている。
一度、パスタに柚子胡椒とバターと醤油を使ったら美味しかったと、ちらっと話しただけで、
翌日だったか遅くとも翌々日には、
「杏子さんあれやってみました。美味しかったです。」
とフィードバックが来た。
やってみろとは言ってない。
ただ、美味しかったと言っただけだった。
しかも 数週間後にはその話すら忘れてるといった有様で、杏子は夢でも見たんだろうと自分の記憶を疑ったくらいだ。

あるミュージシャンが好きだと言っただけで、
数か月後、 
「コンサート行ってきました」
と言われてぶったまげた。
話した時は
「誰ですかそれ?」
と名前すら知らなかったのに。
100年前から知っていたような言い方で、いかにコンサートが良かったかを杏子に聞かせた。
杏子は自分の影響力と沙羅ちゃんの思い込みのすごさが恐ろしくなったものだった。

ある時、杏子がデパートで可愛いバッグを見つけ,衝動買いしたことがあった。
翌日早速オフィスに持って行った。
沙羅ちゃんは、すぐに気が付いて、
「杏子さんそれいいですね!」
杏子は調子に乗って、
「そう?会社の帰りに タコシマヤに言ったら、見つけちゃったの!デザインがいいなと思って。衝動買いってやつね。ふふっ。」
と教えてあげた。
「フーン。ほんとに素敵ですよ。」

翌週 たまたま沙羅ちゃんと一緒に駅の方角に帰る時があった。
その時、沙羅ちゃんの口から衝撃の発言が出た。
「そのバッグ本当に可愛いですねぇ。」
とまた言ってくれたまではよかった。
その後、杏子に戦慄が走った。
「私、あの後タコシマヤに行って、そのバッグ探したんですよ。でもなくて。
店員さんに細かく説明してあげたら、そのバッグ最後の一つだったそうです。
残念!」
杏子は言うべきセリフが出てこなかった。
あんた、同じものを買おうとしたんかい!
同じものを持って会社に来る気だったのか?
絶対あり得ない。
おそろいのバッグはさすがにないでしょ!
何とか杏子の心の中にとどめて、当たり障りのない世間話をして駅で別れた。

その晩、杏子は自宅マンションのベランダで空のお星さまにお願いした。
このバッグ 日本全国津々浦々探しても もうありませんように…
ついでに、万が一のために、この地球上にもうありませんように…

沙羅ちゃんには寛大な先輩としてふるまうが、実は結構心の面積が狭い杏子だった。

[ラバガジェリー] LA BAGAGERIE ABCセミショルダーL  B11-04-03-11 GRAY (グレー)

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