どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ49 裁判長、寛大なご措置に感謝します (その3)

いよいよリム夫妻帰国の日が来た。
帰国便は午後4時過ぎ成田発なので、その2時間前には空港に到着しておきたいところだ。
そう考えると、午後2時ごろまでに成田空港に到着すればいいはずだ。
時刻表を調べると、東京駅発午後1時3分の成田エクスプレスに乗れば、ちょうど午後2時に着く事がわかった。
NEX23号だ。
丸さんが東京駅まで2人を送って行くことになっている。
本人がOKなら、最寄りのJR駅まですぐに切符を買いに行ける。
そう考えながら、杏子はタンさんたちがオフィスに来るのを待っていた。
タンさんがリム夫妻を連れて出社したのは11時ごろだった。
杏子は早速リムさんに、成田エクスプレスの時間を伝えた。
リムさんはもちろんOKだった。
「じゃあ、今からJRの駅まで行って切符買ってきますね。」
すると、タンさんは、
グリーン車で2人分。1万円で足りるね。ありがとう。」
と1万円札を杏子にすっと渡した。
杏子はすぐさま自分のバッグをつかんでオフィスを出た。
駅の指定席券売機で切符を買うだけなので、すぐに終わるはずだった。
12時までには軽くオフィスまで戻るはずだった。
その後、丸さんがリム夫妻を車で東京駅まで見送って終わりのはずだった。
杏子がただ一つ心配だったのは、成田エクスプレスの乗り場が東京駅の丸の内口からでも
意外と分かりにくくしかも遠いことだった。
地下3階まで下りなくてはいけない。
わかるだろうか?
そんなことを考えながら、駅に着いた。
杏子は駅の券売機に1万円を入れ、そして定の時間を選択してピッと押した。
そして1万円札をするすると入れて、指定券発行中の表示が出た。
しばらくして、ペロッと出てきた切符を見て杏子は慌てた。
間違えて、3時を選んでしまった。
13時、13時と考えていたのに、なぜか15時を選んでいた。
深く考えすぎた結果だと説明しても誰も理解できないかもしれないような、
おかしな心理が引き起こした結果だった。
1時は13時だと考えながら、それがなぜか3時と頭の中で変化していた。
なんでそんなことを考えたのか自分でもわからない。
一瞬のブラックホールだった。
まずい!
杏子はおたおたしながら、その指定券を持ってみどりの窓口へ走った。
数人並んでいるので、その列の一番後ろに並び、イライラしながら待ってやっと自分の番になった。
「すみません!時間間違えて買っちゃいました。買いたかったのは1時のなんです。変えてもらえますか?」
窓口の担当のお兄さんは、
「あー、ちょっと待って下さい。まず、これをキャンセルしてぇ。それで、新たに発行しますからね。えーっと…」
まずい12時までにはオフィスに帰らないと。
焦る杏子。
窓口のお兄さんが、黙々と処理をしてくれている間、杏子の頭の中はぐるぐるまわっていた。
そのぐるぐるが10分程続いた後、再発行が完了し切符を受け取った。
杏子はもどかしく思いながら、それをバッグにしまい、オフィスへ向かって走り出した。
30分で戻るはずが、自分の大失敗で結局1時間ぐらいかかることになってしまった。
途中でいったん立ち止まって、丸さんの携帯に電話を入れた。
「丸さん、ぎりぎりなので、お二人を乗せて駐車場出口で待ってて下さい。一緒に東京駅まで行きます!」
そして、オフィスのあるビルの駐車場出口でリム夫妻を乗せた丸さん運転手の社用車を発見した。
杏子が急いで助手席に飛び乗った瞬間発車した。
杏子はぜぇぜぇしながら、リム夫妻に待たせた事を謝った。
それでもぜぇぜぇが収まらない。
こんなに必死に走ったのは、高校の体育の授業以来かもしれないと思った。
息がやっと落ち着いた頃、東京駅丸の内口到着。
そこでリム夫妻と一緒に車を降りた。
杏子は自分のパスモで2人と一緒に改札を通った。
成田エクスプレスの乗り場は遠いのだ。
パトリシアさんの荷物を1つ持ってあげて、ひたすら、乗り場へ向かった。
ほとんど会話もなく黙々と歩く。
駅構内の案内板に翻弄されながら、歩き続けること20分、やっと着いた。
その時すでにNEX23号出発10分前。
グリーン車の乗り口位置を見つけて並び、ここで初めてまともに話ができた。
杏子はひたすらに謝った。
「すみません。30分で戻るはずが、自動販売機で切符買い間違えて、窓口に並んで、変えてもらったらこんなことに…。」
「間にあったし、この駅の中わかりにくいから、君がいなかったら、ここまで辿りつけたかどうか。本当にありがとうね。タンはラッキーだよ。こんないい子が秘書で。」
リムさんは最後まで海よりも心の広い人だった。
杏子は、自分が米粒ほどに小さくなって恐縮しているのが分かった。
間もなく成田エクスプレスがホームに滑り込み、リム夫妻は乗車した。
窓から、中国の映画スターのような美男美女が杏子に向けて手を振ってくれた。
杏子も手を振ったが、たぶん顔はひきつっていた。
なぜなら、オフィスに戻ったら、タンさんにお説教されるのは間違いなかったからだ。
近くで待っていてくれた丸さんの車に乗ってオフィスに戻った。
まずは自分の席にバッグを置いて、大きく息を吸い込んで支社長室をノックして
中に入る。
タンさんは何かを黙々と書いていた。
顔もあげてくれない。
「タンさん…。」
「… リムが絶対怒らないでくれと電話くれたから、僕は何も言わない。時間間違えたんだろ? 全く君は… でも、この話はもうしないから。リムに頼まれたから。」
顔も上げずに言った。
その方が怖いわ!
と杏子は思ったが、リムさんがわざわざそう言っておいてくれたことに感謝した。
彼の素晴らしい弁護のおかげで、情状酌量を得ることができた。
裁判長、寛大なご措置本当にありがとうございます!
2度とこんなバカなことはしません。