どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

エピ48  真面目な珍味 その2 

杏子がカウンターを覗いて見ると、ちょうど誰もお客さんがいない状態だった。
かおりさん、香奈ちゃん、沙羅ちゃんの3人は静かにメールをチェックしている様子だ。
この隙を逃してはいけないと思い、杏子はすぐさま名取さんと皆川さんをカウンターの裏側へ引っ張り込んだ。
新人二人を伴って杏子が入って来たことに気が付くと、まずかおりさんがにっこりと立ちあがった。
そして、それぞれに挨拶して握手を交わした。
次に、香奈ちゃんが気どった感じでで立ちあがり、いい女をアピールしながら、いつもよりちょっと高音域の声で2人に挨拶し握手を交わした。
そして沙羅ちゃんの番になった。
沙羅ちゃんは張り切って名取さんに声をかけた。
「この前、カウンターでずっとお待ちいただいてましたよね?あの時は失礼しました。
日本人の方が1人だけいらしたので、ものすごく気になって何度か見ていました。」
沙羅ちゃんは名取さんに気が付いていたのだ。
それにしても、あの緊迫の状況でカウンターで行列している人たちを眺める余裕があったのだろうか?
あの日は息つく暇もトイレに行く時間も無いほどじゃなかったのか?
少なくともかおりさんはものすごく殺気立っていた記憶あるぞ!
と杏子は思った。
沙羅ちゃんは時々、なぜこの状況でそれを考える?という事が前からあった。
あの時おそらくカウンターで待っている人たちの事をちらちら見て観察していたのだろう。
名取さんはそれに対して、
「ほぉ、あの忙しい中で、僕の事を気に止めて下さっていたんですか。それは大変おじゃましてしまいましたね。申し訳ありませんでした。これからは、どうか、その時ご自分の目の前にいらっしゃるお客様の事だけ考えて誠心誠意対応してあげて下さいね。」
と言い放った。
遠慮しているようで決してそうではない。
どう考えても沙羅ちゃんに対して皮肉っぽく意見しているように聞こえる。
でも言っていることは正しい気がする。
ただ沙羅ちゃんには通じないのだ。
「いえいえ、お待ちいただいてる方も大事ですから。私結構視野が広いんですよ。」
やっぱり自分の都合のいいように解釈するのだ。
すると名取さんは、
「でもね、考えてみてください。もし自分がお客さんで、いろいろ尋ねたり、お願いしている最中にあちこちきょろきょろされて自分に集中してくれなかったらどう思います?この人自分の話聞いてくれてるのか不安になりませんか?他の人は来た順番に対応してくれてる事を理解して待ってるわけですし。」
とちょっとお説教になって来た。
杏子は焦った。
話が長くなると嫌だ。
かおりさんが割り込んで来た。
「名取さんの言うとおりだと思うよ。沙羅ちゃん、今自分の目の前のお客さんや電話の相手に集中するのがいいよ!」
とピシッとその場を締めくくった。
沙羅ちゃんはやっと分かってくれたようで、
「はい、すみません。今後気を付けます。」
とあっさりと謝った。
真面目マンは黙っていられなかったらしい。
沙羅ちゃんの最初の挨拶でそこまで突っ込まなくてもいいんじゃないかと杏子が思ったくらいだ。
気が付くと、皆川さんの影の薄い事と言ったらありゃしない。
ただでさえ、ひょろっと細くて地味なのに真面目マンが凄過ぎてさらに存在を消されていた。
カウンターの挨拶を終えて、最後にバックオフィスにいた五島さんと丸さんの所に辿りついた。
名取さんはこの二人にとっては上司になる。
これから嫌というほど話するだろうからと、名取さんについては簡単な紹介でおわった。
むしろ皆川さんの紹介に力をいれてあげた。
やっとこれで皆川さんも浮かばれる。
まるで幽霊扱いしていた事を心の中で詫びた。