どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

秘書の年末 - 年末ありがたいお言葉アワード(エピ30)

杏子がタンさんの秘書として働き始めてから、これまで何度もタンさんに言われた3つの言葉がある。

 

「ストゥーピッド」

「ユーズ ユア ブレイン」

「アナライズ ザ シチュエーション」

 

最初の2つは、入社してから特に最初の頃には毎日何度も言われていた。

人生初の罵倒されまくりに、へこみまくったものだった。

だが、どんな言葉でも繰り返し言われ続けると慣れてくる。

5カ月たった今も時々怒られてそんな言葉を言われるが、動じなくなってきた。

ほんとに私はそうです。

そう思って素直に反省する杏子だった。

タンさんのお叱りの言葉は大体正しい。

杏子の落ち度だ。

正論に対して、逆切れするほど非常識ではないつもりの杏子だった。

杏子は精神的に鍛えられていた。

 

「アナライズ ザ シチュエーション」

と言う言葉は、今では杏子にとって、とても重みのある言葉となっている。

状況を冷静に分析し行動することが、いかに大事かが分かって来た。

仕事をしていく上で、何か問題があった時、感情的に対応してはいけない。

まずは大きく一呼吸。

そして、なぜそうなったかを考えてみる。

なにが関わっているか。

どこまでは問題が無かったのか。

筋道立てて考えてみる。

すると適切な対処方が浮かんできたりする。

慌ててしまう状況こそ、より冷静になることが重要だ。

タンさんが繰り返し教えてくれたことだ。

人間は感情で動く生き物だ。

だが、それと同時に考える能力を与えられているのだ。

その能力は有効に使わなくては。

 

タンさんから学ぶことは多い。

杏子は尊敬すらしている。

タンさんが杏子を信頼してくれているかどうかはわからない。

 

カウンターの女のバトルや、貨物課のまわりくどい四角い顔のおっさんや、総務経理の変人、そして、鍋代官たぬき。

よくもこれだけの人が揃ったものだ。

ただし、鍋代官たぬきは杏子がオフィス内で尊敬しているもう1人なのだ。

 

よく考えてみれば、それぞれの行動パターンが見えてくる。

タンさんいわく、問題の多い時ほど、より多くの時間を費やし、分析し解決策を見出すことが大事だと言う。

じっくり考えたつもりで、自分ではこれ以上の素晴らしい考えはないと思う。

本当にそうだろうか?

そう疑う時間も必要なのだと言うのだ。

自分の考えた解決策を頭の中でシュミレーションしてみる。

うまくいかなかった時に、どんなさらなる問題が出てくるか。

その問題は現在の問題より大きいのか、乗り越えられるのか。

時に決断を急がされる時があるかもしれない、

そういうプロセスを繰り返すことで、自分の中のデータベースも蓄積される。

それが、その後の役に立つことも多いはずだ。

 

杏子は、たった5カ月近くの中でも、その理論は正しいと実感している。

人間年を取るとそれなりに賢くなるのはそういうことなのだ。

 

女のバトルはたちが悪い。

なぜなら、感情と言う一番難しい部分が根幹にあるからだ。

説明が付かないことも多い。

なぜ香奈ちゃんがあんなに裏表が激しく違い、好き嫌いも激しいのか。

本当の解決策はないかもしれない。

それでも、悪化しないようにしないといけない。

カウンターはある意味会社の顔の部分だ。

そんな雰囲気の悪さが表面に出ることは避けなければいけない。

それなのに、香奈ちゃんは社外の人間にかおりさんや沙羅ちゃんの悪口を言いふらしている。

時に泣きながら、いじめられているとか言っているらしい。

タンさんの言うようにずるがしこい女だ。

ただ、杏子にはいまのところ被害はない。

いっそのこと、杏子のことも嫌ってくれた方がやりやすいとさえ思う。

 

杏子にとってはちょっと気の重いソラリア航空日本支社の忘年会の日が来た。

その日のお昼すぎあたりから、中華料理の丸テーブルの席順を考えたりしていた。

会社からは、ちょっと距離があるので、タクシーで分乗していくことになっている。

誰と誰が一緒にいくのか。それも悩みの種だ。

杏子は鉄の帽子でもかぶっているように頭が重い。

 

そう考えているうちに、5時半を過ぎた。

 

いつもなら、まだ出かけている営業の面々ももうオフィスに戻っていた。

6時半には出かけようと言うことになっていた。

タンさんの仕事はとっくに終わっている。

今日は社用車は使わない。

今日だけは丸さんは運転手をしなくていいのだ。

 

カウンターの女性たちが11人制服を私服に着替えて、バックオフィスで待っている。

そうしているうちに空港の2人、刈谷さんと倉本さんもやって来た。

杏子にとってはめったに会ったり話したりすることのない2人だ。

刈谷さんとしばらく雑談する。

相変わらず、丁寧で律儀な感じの人だ。

そして倉本さんは、パッと見イケメンだ。

彼は、既婚者で、若いのに小学生の娘がいた。

関西弁なのですぐに誰とでも打ち解け安い感じだ。

仕事的には、ポカが多いと聞いている。

誰しも完璧ではないのだと杏子は思った。

 

そして時間になり、タンさんが支社長室から出てきた。

「そろそろ行こうか?

タンさんにそう言われて、杏子はみんなに声をかける。

そして、全員そろってオフィスを出た。

香奈ちゃんはすでに、田中さんたちの金魚のフン作戦に出ていた。

ちょうどいい。

あの3人と五島さんをタクシーにまず押し込もうと杏子は思った。

 

次に、進藤さんがどうしてもタンさんと丸さんとくっつきたがったので、上村さんに犠牲になってもらって、4人で行っていただくことにした。

 

残ったのは、杏子、かおりさん、沙羅ちゃん、空港の2人。

中途はんぱなので、3:2で乗ることにする。

どうせ、タクシー代はタンさんに請求するのだ。

 

沙羅ちゃんは空港の2人と出発。

杏子とかおりさんは最後にタクシーを捕まえた。

 

レストランに着くと、香奈ちゃんはちゃっかり田中さんと水沢さんの間に座っていた。

抜け目ない女だ。

でも、実はその方が良かった。

香奈ちゃんの横が空いているととても困ったと思う。

最後に到着の杏子とかおりさんは並んで空いた席にすわった。杏子の左隣は、刈谷さんだった。

 

席順は何とかクリアだ。まずはひと安心。

 

タンさんのお言葉でまずは乾杯した。

オードブルから順番に出てくる中華懐石というスタイルだった。

どれもわずかな量を余韻に浸りながら食べる。

美味しいかった。

さすがタンさん。

会話もそれなりに弾んだ。

だが、時々、香奈ちゃんの発するかおりさんへの嫌味ともとれる発言や、自分の自慢話にその場にブリザードが吹いた。

そのたび誰かが会話の軌道修正を図って、ブリザードをよけた。

ほんとにこの子は困ったものだ。

もっと困るのは、進藤さんだ。

せっかく、香奈ちゃんの暴言を無かったことにしているのに、

「清水さんは、田中さんや水沢さんには猫なで声なんだねぇ。」

と言わなくてもいいことを言っては、ブリザードを呼び戻すのだ。

黙れ、そこの四角い顔!

杏子は進藤さんを睨んだ。

 

香奈ちゃんも、こういう場でなんでそんなことを言えるのか理解不能だ。

自分の立場をおとしめるだけなのに。

杏子は香奈ちゃんを憐れんだ。

 

さすがにかおりさんは香奈ちゃんよりはずっと大人だった。

何も反論せず聞こえなかったふり。

それがいい。

そうでないと、この食べたこともないような美味しい中華料理の乗った丸テーブルがひっくりかえるような惨事になりかねない。

 

最後のタピオカココナッツミルクの高級バージョンまでとても堪能できた。

鍋にこだわる田中さんですら、

「ここいいねぇ!今度接待に使おう!

と言った。

それに対してタンさんはやんわりと、

「ぼくが来る日とかぶらないようにね。」

と小さなブリザードを吹かせた。

それは杏子しか気がつかないブリザードだったが。

 

解散はレストランの前で、タンさんにみんなでお礼を言ってからだった。

香奈ちゃんは、2次会と称して、何人かを誘っていた。

カラオケに行きたいそうだ。

田中さんはスポンサーとして必要だったので、真っ先に声をかけていた。

そして、杏子にもお誘いがきたが、

「ごめんね。家があまり近くないから今日は帰るね。」

と丁寧にお断りした。

 

沙羅ちゃんは誘われなかった。

タンさんはさっさとタクシーで帰って行った。

刈谷さんは香奈ちゃんが嫌いで、香奈ちゃんも刈谷さんが嫌いなので、

逆相思相愛で誘われず。

かおりさんに至っては、その方向を見ようともしなかった。

香奈ちゃんは進藤さんには来て欲しくないと思っているのはわかった。

なので、杏子は状況をアナライズして、一計を案じた。

田中さんに、

「たまには進藤さんと話したいこともあるんじゃないですか?誘わないと帰っちゃいますよ~。ねっ?

と言うと、

「進藤君、たまには一緒に飲もうよ!

と田中さんが進藤さんに声をかけた。

その瞬間の香奈ちゃんの嫌そうな顔といったらなかった。

なんでも自分の思い通りにはならないのよ。

杏子は、進藤爆弾を送り込むことに成功した。

やっちゃった!

と心の中で、舌を出してべーをする杏子。

そして、1人の外見のみ美女と取り巻きの男性たちの集団はカラオケへと旅立った。

進藤さんが行くわかると丸さんが、

「えっ?進ちゃん、そっち行くの? だったら、俺も連れてってよー。」

とうれしそうに付いて行った。

あんたたちはどんな関係なんだ!怪しい関係じゃないだろうね?

 

残りのお断りした人と無視された人のグループは一緒に最寄りの駅までとぼとぼ歩いた。

そうなると、香奈ちゃんへの不満解禁。

刈谷さんなんて、

「なんであんな女がちやほやされるの?分かんないね!

かおりさんは、

「もうどうでもいいや。会社でだけ会えばいいから。」

沙羅ちゃんは、

「私最近まであんなに怖い人だと思いませんでした。」

と言った。

 

それには、

たぶんあなたが気がつかないだけだよ

とみんな思った。

 

いけない。

ある意味、あのヘビ女を中心に回っている。

絶対にこれではいけない。

状況をちゃんと分析して、こういった状況を改善しなければと強く思う杏子だった。

 

おいしい料理で心が温まったり、香奈ちゃんのおかげで一気に冷え込んだり、ある意味おもしろい忘年会だった。

 

もうすぐ年越し。

杏子の波乱の一年がもうすぐ終わろうとしていた。

 

今年の杏子のありがたいお言葉アワードを見事に受賞したのは、

「アナライズ ザ シチュエーション」

 

おめでとうタンさん。

ありがとうタンさん。

来年もどうかよろしくお願いします。

 

 

生きていくのに大切な言葉 吉本隆明74語

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