どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

秘書の年末 - ヘビに睨まれた子ブタ(エピ29)

 

進藤さんはついに陰で香奈ちゃんのことをヘビ女と呼ぶようになっていた。

 

そうなっても不思議ではない。

 

香奈ちゃんは進藤さんを見下していた。

 

相手を自分より下とみなすと、態度が豹変する女なのだ。

 

今のところ、杏子は表面上では慕われている。

 

ただし、杏子自身というよりも、タンさんの秘書としての杏子が慕われていたのだ。

 

香奈ちゃんにとっては、貨物というのは航空会社ではオマケという感覚、つまりは、

 

航空会社が成り立っているのは旅客のおかげと考えているのが明らかだった。

 

お客様を乗せてなんぼと言うわけだ。

 

表面上はお客様を乗せて海外へ飛び立つ旅客便はとても華やかにみえるが、LCC(ローコストキャリア)の参入により、状況は変わってきている。

 

以前のように華やかなものではなくなっている。

 

ところが、貨物は実は非常に利益率の高い商売なのだ。

 

機内食も出さなくていい。荷物自体はクレームもしない。

 

ちゃんと乗せて安全にさえ運べば利益になるのだ。

 

しかし、香奈ちゃんにとっては、貨物課はあってもなくてもいいくらいの感覚なのだ。

 

それが、進藤さんに冷たい一因でもあるが、あのうっとおしいような雰囲気も全く関係ないとは言いきれない。

 

 

 

反面、ヘビ女は旅客営業の2人にはとても媚びていた。

 

なにかと旅行代理店の接待の場に連れて行ってもらっていた。

 

そうした努力の結果、彼女は旅行代理店の支店長や部課長クラスのおじ様にはアイドル的存在だった。

 

12月に入ると連日、夕方お化粧をじっくりと直し、目いっぱいおめかしして

 

田中さんたちについて出て行く姿をよく見かけるようになった。

 

香奈ちゃんは顔のパーツはそんなに大したことはない。

 

目が大きくてきれいだとか、口がぽってりして色っぽいとかではない。

 

ただ、配列だけはちゃんとしていた。

 

そこに、サラサラロングヘアーとモデルのようなプロポーションだ。

 

世間一般では、いい女の部類だ。

 

性格は誠に残念なことになっているが。

 

香奈ちゃん自身も自分のルックスには自信があるとみた。

 

仕事中は髪を後ろで束ねて地味目にはしているが、それでもカウンターに来るお客様の目

 

を引く存在だった。

 

人間最初は見かけには騙されるものだ。

 

 

 

杏子は、夕方のお手洗いでこれから旅客営業の接待について行く香奈ちゃんにばったり出

 

くわしたことがある。

 

大きな鏡の前で、香奈ちゃんはとても気どった風に口紅を塗っていた。

 

そして、一言、

 

「タンさんて結構いやらしいんですよ。」

 

「この前、カウンターに知り合いの方がいらして、お呼びしたんですよ。しばらく、話してお客さんが帰った後、私に向かって、制服のボタンはそんなに開けるもんじゃない!ですって。」

 

「人の胸元見てたんですよ。」

 

と自慢げに言う。

 

そりゃ見るでしょう。見たから気が付いたんだよ。

 

と思いながらも、苦笑いするしかなかった杏子。

 

なんと自身たっぷりな女でしょう。

 

世界中が自分を見てると思ってるのだろう。

 

 

 

香奈ちゃんは自分が誰よりも注目されていないとダメという性格だ。

 

会社での立場も一番になりたかったのかもしれない。

 

ところが、かおりさんは自分の上司で、なおかつ周りから頼りにされていた。

 

当然面白くないから、かおりさんに対しては何かとケチをつけたり、刃向かったりするのだ。

 

田中さんなどは、普段は調子よく彼女をちやほやするが、いざ大事な仕事になると

 

決して彼女には頼まず、必ずかおりさんに行く。

 

さぞかし悔しいだろう。

 

 

 

沙羅ちゃんは、彼女にとっては何の脅威でもなかった。

 

ルックス的にも人並みで、ぽっちゃり系のぷに子ちゃんだし、おまけに超天然素材だ。

 

しかし、それは香奈ちゃんの勝手な思い込みだった。

 

沙羅ちゃんの人懐っこい笑顔や、ちょっと天然な感じは意外ともてていたのだ。

 

カウンターに来る旅行代理店の若手の男子は、結構沙羅ちゃんファンが多かった。

 

それが分かったのは、旅客営業の2人が、某旅行代理店の忘年パーティに招待された時だ。

 

その旅行代理店の男性若手スタッフが沙羅ちゃんを連れてきてほしいとリクエストしたのだ。

 

よせばいいのに、無神経な田中さんは、カウンターで3人がそろっているときに、沙羅ちゃんに話した。

 

沙羅ちゃんは、

 

「えーっ!私なんていいんですか。本当は香奈さんがいいんじゃないですか?」

 

とくねくねしながら喜んでいたとあとでかおりさんが教えてくれた。

 

その時、香奈ちゃんは無理やり作った笑顔で、

 

「私はいつも誘われてるから、たまには言っておいでよ。よかったじゃない。」

 

と言ったが、目は笑っていなかったそうだ。

 

杏子は聞いただけで怖くなった。

 

無邪気に喜ぶ沙羅ちゃんとその横でヘビ女に変身しそうな香奈ちゃん。

 

ヘビ女と子ブタちゃん。

 

真剣に沙羅ちゃん将来を心配する杏子だった。

 

 

 

その忘年パーティ当日夕方、沙羅ちゃんは田中さんたちと帰って行った。

 

それよりもずっと先に香奈ちゃんは1人で帰っていった。

 

知らない間に消えていたと言った方がいいかもしれない。

 

自分より下だと思っていた沙羅ちゃんに、自分の役目をうばわれたのだ。

 

屈辱の一日だっただろう。

 

 

 

その日を境に、香奈ちゃんにとって、沙羅ちゃんは可愛妹分からただの子分に成り下がった。

 

沙羅ちゃんが悪いわけではないのに、ヘビ女に睨まれた子ブタと化した。

 

 

 

香奈ちゃんはそうやって敵を増やしていくんだろうか。

 

損な性格だと憐れむ杏子だった。