どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

秘書の発見 ⁻ トイレの悪事(エピ27)

杏子が朝、給湯室で前日の来客の茶碗を洗っていると、本田さんが、

「おはようございます。」

と声をかけてきた。

 

本田さんは、杏子たちのオフィスがあるビルのパート清掃員をしている。

何人かいる清掃員のうちの1人だ。

本田さんは、60過ぎのおばちゃんで、朝の時間帯を担当し共有部分の清掃をしていた。

主に、各階のトイレとその近くにある給湯室の掃除をしてくれる。

 

杏子はある事件以来、いつの間にか本田さんとは仲良しになっていた。

ある事件とは、たまたま杏子がトイレに入り用をたして便器のふたを閉め、その後ろ側にあるレバーを引いて水を流そうとした時のことだ。

そこに衝撃の光景があった。

なんと、レバーの下の便器のわずかな平らな部分に缶コーヒーの缶があったのだ。

一体誰がこんなところで缶コーヒーを飲んだのだろう?

そんな疑問はあったが、とりあえず水を流した。

そのあと、その缶を持って、どうしようかと考えていたところ、近くの給湯室で本田さんが掃除をしているのを見つけた。

杏子は、缶を持ったまま、本田さんのところに行き、

「これ、便器の後ろ側に置いてあったんですよ。びっくりして。誰がトイレで缶コーヒーなんて。」

と杏子が言うと、本田さんは、

「またぁ?この前なんて、飲みかけで置いてあって、わからなかったから落としちゃってコーヒーがこぼれてたいへんだったのよー。一体誰がこんなお行儀の悪いことをするんだろうね。」

と言った。

杏子は、そのフロアにはテナントはソラリア航空しかないので、

「ひょっとしたら、うちの社員の誰かかも。でも、お客さんかもしれません。すみません。」

と謝った。

すると、本田さんは、

「別にあんたがやったんじゃないだろうから、そんな謝らなくていいよ。ごめんね。

あんまり非常識過ぎて、その時は腹が立ってねぇ。困った人がいるねぇ。」

と言ってくれた。

杏子は一体誰がこんなことをと真剣に考えた。

ソラリア航空で女子トイレに入るのは杏子を含めて4人だ。

前にもあったということは、お客さんではない気がする。

一体誰だろう?

別のフロアからわざわざ来てということもないと思った。

なぜなら、3階はソラリア航空だけしかないから、見慣れない人がいるととても目立つ。

 

ソラリア航空スタッフだとしても、かおりさんではないと思った。

杏子は、かおりさんはそんなことが許せないタイプだとよく知っていた。

香奈ちゃんにしても、そんなことする感じではない。

沙羅ちゃんが、やりそうな気がする。でも、そこまでするかな?

決めつけてはいけない。

杏子は、何の証拠もないのに沙羅ちゃんを疑ってしまったことを反省した。

それでも、気になってしょうがない杏子だった。

 

その日、杏子は、よせばいいのに、機会をうかがっては沙羅ちゃんのコーヒーの好みを聞いたりしてみた。甘いのが好きらしい。缶コーヒーもたまに飲むと言っていた。

なるほど。

沙羅ちゃんはかなりの天然だ。

トイレだろうが、どこだろうが飲食しても平気そう。

杏子の机はちょうどスタッフ入口がよく見える位置だ。

誰かが、出入りすればすぐにわかる。

沙羅ちゃんがトイレに行く時は偶然を装って、杏子も行ったりもしてみた。

なかなか、現場に遭遇するのは難しい。

 

ふと、自分が犯人探しに必死になって、仕事がちょっとおろそかになっていることに気が付いた。そんなことをしている暇はないのだ。

忘れよう。

何度も続いたら、ビルの管理会社に杏子が言いに行けばいいことだと思った。

でも、沙羅ちゃんなのかな…

 

その後、本田さんから、新たな缶コーヒー事件は聞かなかった。

杏子もすっかり忘れ去りそうだった。

 

進藤さんが、また杏子のところにご機嫌伺いにやって来た。

今日は、缶コーヒーを持っていた。この人は缶飲料が大好きだ。

それを飲みながら、進藤さんはごく自然に杏子の目の前に座った。

面倒だ。早く追い払いたい。

「進藤さんどうしたんですか?缶コーヒーなんか飲みながらくつろいでる感じですね。

お忙しくはないんですか?」

すると進藤さんは、

「最近疲れちゃってね。なかなか貨物集まらなくて。」

とため息混じりに杏子に愚痴を言う。

「この時期、難しそうですね。もうちょっと先を見て、営業した方がいいのかもですね。」

と言ってあげると、

「さすが杏子ちゃん!僕もそう思ってたんだよ。同じ考えで安心したよ。ありがとう。」

この人は相変わらず、何を言いたいのか分からない。

悪い人ではないのだが。

「今さ、下の自動販売機で缶コーヒー買おうとしたらさ、あのカウンターのツンとした女がいたんだよ。で、話しかけたら、すんげぇ冷たい目で見やがってさ。人をばかにしたような。あの清水香奈って女さ、感じわるいよな。それで、なんか気分悪くなってさ、杏子ちゃんと話して忘れようと思ったんだよ。ごめんね。邪魔しちゃって。」

進藤さんが思いがけないことを言った。

「進藤さん、よく自動販売機でコーヒーとかジュース買ってますよね?

「香奈ちゃんと会うことよくあるんですか?

杏子が聞くと、進藤さんは、

「あいつしょっちゅう缶コーヒー買ってるよ。あんな甘いの飲んでも太らないんだね。あいつどっかでサボって飲んでるんだよきっと。新田さんも苦労するねー。」

と教えてくれた。あいつ呼ばわりだった。

ふーん。そういうことか。

杏子は思った。

証拠はないけど、きっと香奈ちゃんなんだ。

本田さんに明日おしえてあげよう。

そう思った。

 

本田さんには、もしかしたらと前置きして、犯人香奈ちゃん説を話した。

どうも、香奈ちゃんは、人の見ていないところで、自分より下だと思う人には結構冷たいらしい。

本田さんがあいさつしても、香奈ちゃんは無視したこととかあったそうだ。

さすがに本田さんは自分の職務とは関係ないから、いくら杏子でもその話は出来なかったそうだ。

あからさまに人の悪口だから、誰しも出来れば言いたくない。

人の悪口を言う自分の姿は、自己嫌悪の元だ。

杏子が香奈ちゃんが怪しいとこっそり言ったので、やっとその事を教えてくれたのだ。

優しい本田さんにこれ以上嫌な思いをさせたくないと杏子は思った。

それで、本田さんには、

「私の話として、ビルの管理会社に報告します。何階のトイレとか明らかにしないで、

各テナントに注意の文書を出してもらいます。」

「もし、それでもまだそんなことが続いたら、私に言ってください。本人にさりげなく注意しますから。」

と言っておいた。

 

本田さんは、

「あんた本当にいい子だね。彼氏いるの? 当然だね。男が放っておかないね。あんたみたいないい子は。うちの息子の嫁に来て欲しかったよ。」

とお嫁さんの愚痴になりそうだったので、杏子は逃げた。

心の中には苦い思い出がよみがえって来た。

実は、私前の会社で結婚間近で男にふられたんですよ。うるさい女だって。ついていけないって。

と本田さんにほめられたのに、悲しくなってしまった。

 

その後、ビルの管理会社からの注意書きが各テナントに配られた。

日本語だったので、タンさんに英語で説明した。

タンさんは全員に回覧しろと言った。

 

かおりさんから、あとで聞いた話だが、その回覧を見ながら、

沙羅ちゃんが、

「このビルにそんなお行儀の悪い、しかもトイレでコーヒー飲めるなんて信じられない女の子がいるんですね。」

とつぶやくと、香奈ちゃんも、

「そうだよ!女として最低!

と激しく同調していたそうだ。

あの天然の沙羅ちゃんにそんなこと言われたら2度とあれは出来ないだろう。

かおりさんは知らないから、

「どこの会社だろうね。気になるね。杏ちゃん何か知ってる?

と言った。

 

杏子は知らないふりをした。

杏子と本田さんの2人の秘密にした。

 

しかし、香奈ちゃんはすごい。

こうやって狙った男もたぶらかすのか。

正直な女の方がもてないなんて。

妙に悲しい杏子だった。

 

 

 

ワンダ 金の微糖 185g×30本

ワンダ 金の微糖 185g×30本