どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

秘書の発見 -お寿司が怖い(エピ24)

カウンターの女のバトルは終わっていない。

オフィス内では、周りの人間が慣れてきたので、落ち着いた印象があるだけだ。

杏子には、むしろひどくなってきているような気がする。

相変わらず、かおりさんとは時々ランチに行ったりしている。

香奈ちゃんの悪口が出ない時はない。

香奈ちゃんがしつこく誘うから、他の航空会社のスタッフとの飲み会にも

行ったことがある。

そこで、香奈ちゃんは思いっきりかおりさんの悪口を言いふらしている。

杏子の前で泣いた香奈ちゃんは、あれは演技だったと今では確信している杏子だ。

あの時、周りに人がいる状況で杏子に派手に泣きついて来た素晴らしい演出だった。

ブラボー!

なんだかうまく利用されてる。

 

ある日、カウンターで席替えがあった。

それまで、カウンターに向かって右から、かおりさん、香奈ちゃん、沙羅ちゃんの順で座っていたはずだった。それが、かおりさん、沙羅ちゃん、香奈ちゃんの順番になっていた。

真ん中に、沙羅ちゃんという緩衝材を挟んだわけだ。

それとも、沙羅ちゃんはお互いに相手をなるべく無視するための壁なのか。

 

杏子は不思議で仕方がない。

沙羅ちゃんは、どちらともそこそこうまくやっているように見える。

あんな強烈な2人に挟まれて、どうして平気でいられるのか分からなかった。

意外としっかりした子で、自分が何とかしようと思っているのかもしれない。

少なくとも、沙羅ちゃんはオフィスの誰にも、あの二人のバトルに関して文句を言っていないようだ。

考えてみれば、杏子は沙羅ちゃんとそれまであまり関わりがなかった気がする。

杏子は、勝手にぼーっとした子だと思い込んでいたのかもしれない。

何とか沙羅ちゃんがこのこじれた二人の間を取り持ってくれればと願った。

 

その日、杏子はタンさんに個人的な買い物を頼まれた。

本国にいる妹さんに頼まれた化粧品だった。

タンさんの許可を得て、ランチ時間を長めにとってデパートまで行ってくることになった。

どうせ出かけるならついでに郵便物も出して来ようと思い、五島さんに聞くと、2通だけお客さん宛ての郵便物があった。

毎日、お客さんからタイムテーブルを送ってほしいと言う電話があるのだ。

両方とも、中身はタイムテーブルらしい。

会社のロゴと住所がプリントされた定形封筒に入れられて、切手も貼ってあった。

その2通をさっと受け取って、エレベーターに乗った。

そして、なんとなくその内の1通の宛名を見た。

ソラリア人留学生宛てのようで、宛名はカタカナで書いてあった。

住所に目をやった瞬間、杏子は崩れ落ちた。

2本の足で立っていられないくらい、全身の力が抜けた。

力が入らない。

笑いすぎて。

ダメだ、笑いが止まらない。

とりあえず、エレベーターは1階に着いたので、這うように外に出た。

しばらく立ち直れない。

今、誰かが杏子を見たら、びっくりするだろうと思った。

なんせ1人の女がエレベーターの前でへたり込んでいるのだから。

杏子は何とかいったん精神を安定させ、オフィスに引き返すため、またエレベータに乗った。

五島さんのところに戻って、話そうとした時、また、笑いのスィッチが入ってしまった。

「ご、ご、五島さん… こ、こ、これ…」

笑いがとまらない。立っていられない。

その場にへたり込む杏子。

何とか声にだせたのは、

「このじゅうしょぉ~」

すると、五島さんは驚いて、

「なんですか?定形ですよね?80円切手でいいはずですよ。海外当てじゃないですよね。」

と言いながら、その宛名を見てへたり込んだ。

バカになったかのように笑う2人。

収集がつかない。

そこには、こう書いてあった。

 

埼玉県草加市XX 1丁目10アナゴ

 

アナゴってなんだ!

私は日本人として27年生きてるけど、そんな住所聞いたことないぞ!

ひょっとして7号なんじゃないか?

いかにもカタ言の外人が発音しそうだ。

杏子と五島さんは、机につかまって立ちあがった。

まだ、笑いでへらへらしている。

「これ、誰が書いたの?」

「たぶん、大島さんの字です。」

そうか、沙羅ちゃんが書いたのか。

杏子はカウンターの沙羅ちゃんのところに行った。

ぶり返す笑い。

「さ、沙羅ちゃん。これ。」

沙羅ちゃんはそれを見ても何とも感じないらしい。

「あ、それ私が書いたやつですよ。何かありました?」

と普通に答える。

「ねぇ、この人、本当にアナゴって言った?」

「はい。」

と真顔で答える沙羅ちゃん。

7号でしょ?」

「いえ、ちゃんと復唱して確認しました。アナゴですかって聞いたら、はい、アナゴです

って。」

「ねぇ、日本のどこに、アナゴって番地があるの?7号じゃないの。」

「だって、ちゃんとアナゴって言われたんです。」

そんなわけないだろ!

沙羅ちゃんの両脇で日頃険悪な雰囲気のかおりさんと香奈ちゃんですら、肩を震わせて笑

っている。

もう話しても無駄だ。

杏子は、沙羅ちゃんとの不毛な会話につき合っている暇はないのだ。

五島さんの机で修正液を借りて、アナゴの部分を白く塗りつぶし、7号と上書きした。

五島さんは念のため、インターネットの日本郵便のページで郵便番号を確認してくれた。

絶対にアナゴはあり得ない。調べるまでもないのだが。

 

ねぇ、沙羅ちゃん、教えてくれる?

確かに日本は広いし、私が今まで生きてきた中で行ったことのない所がほとんどだよ。

でもね。

埼玉県にそんな番地があったら、ニュースになってると思うの。

だって、笑えるじゃない?

沙羅ちゃんはどうしてそんなに冷静に、そのまま言われたことを復唱して確認できるの?

心の中で、沙羅ちゃんとの一問一答をシュミレーションしてみる杏子だった。

 

そしてある結論に至った。

そうか、だから平気なんだ!

かおりさんと香奈ちゃんが険悪になってること気付いてないんだ。

鈍感。

天然。                                                                                       

ボケ。

そういうことだ。

なるほど。

ただ、かおりさんと香奈ちゃんを同時に笑わせたことだけはほめてあげよう。

一瞬雰囲気が和らいだことは事実だ。

 

アナゴ事件には後日談があった。

杏子は、金曜日の夜、久しぶりに旅行会社時代の友達数人と食事に行った。

お寿司屋さんだった。回る系だ。

カウンターに座り、前方にある木の札に書かれた寿司ネタを見ていた。

そこに、あなごを見つけてしまった。

笑いのスイッチがオンになった。

友達は不思議に思うから、杏子にどうしてそんなに笑うのか聞いた。

杏子は事件のことを話そうとしても、笑いがこみあげて、ちゃんと話が出来ない。

結局、杏子だけほとんどお寿司が食べられなかった。

ずっと笑いっぱなしだった。

毎日でも食べることが出来るくらい大好きなお寿司のはずがだ。

 

私はお寿司の食べられない体になってしまった。

これは悲しむべきことなのに笑える。

 

沙羅ちゃん、あなたには天然100%のお墨付きを差し上げます。

 

 

一瞬で相手の心をツカむ!笑いのスキルで仕事は必ずうまくいく

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