どうせなら笑って過ごそうよ!

闘う杏子さんのお話 日常の中の笑いの数々 笑って過ごしても泣いて過ごしても同じ一生。それなら笑って過ごしたい!

秘書人気爆発 - ソラリア3分クッキング(エピ21)

 

「杏ちゃん、お昼行かない?」

 

かおりさんが杏子に声をかける。

 

杏子は都合が合えば一緒にランチに出かける。

 

予約発券課にはお昼当番があって、3人の内、誰か1人は時間をずらしてランチに出かけることになる。1人が12時から1時までカウンターに残り、他の2人はその間にランチに出る。毎日持ち回りで当番をしているので、1週間に最大2回のお昼当番がまわってくることになる。かおりさんが当番でない時はよく杏子にお声がかかる。

 

一方杏子は、基本12時から1時がランチタイムだが、タンさんの都合でずれ込むこともある。

 

かおりさんとランチに行けるのは、多くても週に2回くらいだろうか。

 

 

 

かおりさんは、某大手米国航空会社で5年以上勤務したのち、ソラリア航空にやって来た。

 

せっかく、お給料の高い米国の航空会社で働いていたのに、何を好き好んでソラリア航空を選んだのかは不明だ。杏子はあえて聞いたこともない。言いにくいことがあるのかもしれない。そもそも自分が転職を考えた理由だって、会社の人間には知られたくない。言いたければ自分で言うだろうから、あえて聞くことはしない。

 

 

 

かおりさんは、同時に入社した人間の中では唯一外資系航空会社勤務経験があった。英語も堪能だ。予約発券の知識もある。だからこそ、課長として採用されたのだ。

 

入社当日から、杏子を「杏ちゃん」と呼んだ。

 

その時、会ったのはまだ2回目だった。

 

年齢は杏子より1歳年上の28才だ。

 

元来おしゃべり好きのようで、ランチの時も大体ほとんどかおりさんがしゃべっている。

 

どんなお客が来たとか、部下の2人がどうしたこうした。

 

自分は他のスタッフよりも、外資系航空会社のことがよくわかっているという自負が感じられる。自分がどんなに頑張って、二人を教育しているかをいつも熱く語っていた。

 

かおりさんの部下である二人は、航空会社に携わる仕事はしていたが、空港でのハンドリングを請け負う会社の社員だった。

 

 

 

ランチでは物足りないのか、帰りも、

 

「一緒に駅まで行こうよ。」

 

と誘ってくる。

 

杏子はタンさんを差し置いて先に帰ることはできない。あくまでもボスあっての秘書なのだ。したがって、かおりさんの帰りのお誘いも、なんとか1週間に1回ぐらいは受けることにしていた。

 

最寄りの駅まで一緒に行く途中ですら、かおりさんは一方的に話続ける。

 

いつも似たような話だった。

 

たまに杏子に聞くことは、

 

「ねぇ、私のこと、タンさん何か言ってた?」

 

ぐらいだろうか。

 

自分のことがどう評価されているかは気になるのだ。

 

たとえ、何か話していたとしても、杏子は絶対にそれをタンさん以外の人にはしゃべらない。秘書としてはそれは当り前のことだった。聞かれたら、ベラベラしゃべるようでは秘書失格だ。

 

「あんまり、スタッフの話はしたことないかも。」

 

なんてごまかす。

 

 

 

そんなかおりさんが大きく変わった。

 

ある日の夕方、杏子のところに来て、一緒に帰ろうと誘った。

 

明らかにいつもとは様子が違っていた。

 

タンさんが早めに帰ってしまっていたので、心おきなくお誘いを受けた。

 

ただ、杏子の仕事の後片付けが手間取って、2人でオフィスを一緒に出たのは7時近かった。その間もかおりさんはじっと待っていた。

 

 

 

エレベータを降りて、ビルの外に出ると、

 

「杏ちゃん時間ある?どっかでお茶しようよ。」

 

とかおりさんが言った。

 

杏子は、30分くらいならいいだろうと思い、駅近くのコーヒーショップに入った。

 

コーヒーを受け取り、席に座った瞬間、

 

かおりさんは一気に弾けた。

 

「ちょっと聞いてくれる?香奈が何かと私にはむかうのよ。」

 

と来た。

 

やっぱりそんなことかと思う杏子。

 

「ちょっと注意しただけなのに。それでぷっと膨れて。それから、しょっちゅう言い返すんだよね。」

 

「大体さ、あの子たち2人はまだ仕事があんまり出来ないんだよね。結構失敗するし。私結構あの子たちのやらかしたこと尻拭いしたり、助けてあげてるんだよね。」

 

「さすがに間違いがちょっと多かったから、ちゃんとやろうよみたいなこと言ったらさ、

 

そんなの聞いてないからわかりませんとか切れてんのよ。」

 

「私あの子たちの上司だよ。上司に向かってその言い方はなんなの?って言ったら、私の言い方がひどいってさ。私そんなひどい言い方する?」

 

ここまで杏子が口を挟む隙なしだった。

 

やっと、

 

「なにがあったの?」

 

と杏子が聞くと、

 

「ちょっと前にあの子が失敗したのよ。事件があったの。今日発覚したの。」

 

「他のこと全部後回しにしてあの子の失敗後始末したんだよ!」

 

「それなのに、ごめんなさいも言わないんだよ!」

 

「感謝されるとこじゃない?」

 

 

 

これは長いかもしれない。

 

軽く覚悟を決める杏子。

 

 

 

「ソラリア国のサダールで乗り継いでロンドンまで行きたい外人のお客さんから電話があったらしいの。別に難しいことじゃないよ。その人はオープンチケット持ってたんだって。だから、予約入れて、あとは空港でチケット処理してもらうみたいな感じだったらしいんだけどね。普通に予約いれて、確認して、座席希望やスペミルとかリクエストないか確認して終わりだし。で、予約取れましたって答えて。簡単なことなんだよ。それがさ、ちょうどカウンターにもお客さんが来て、あの子しか空いてなかったのよ。そっちが気になったのか、電話切って、予約記録の最終確認や送信作業しないで終っちゃってたらしいの。それは本人の言い訳なんだけどね。空港の人にメッセージ入れてもいないしさ。なんでそれが発覚したかって、その人今日の便で出発だったのよ。空港の刈谷君から電話があって、予約ないよって。慌てちゃってさ。だって、その人空港のチェックインカウンターに来てるんだもん。探しまくったよ。その当人は、うちの香奈が予約入れてくれたって言ったらしいの。香奈に聞いたら、最初は知らないって、しれっと言うの。そのうちなんとなく思い出したんじゃない?でも予約はないじゃん。履歴にも残ってないの。香奈に探させたよ。で、あの時、次のお客さん来たから、最後の作業忘れたかもって。それじゃだめじゃん!でも、お客さん待たせる訳にいかないから、慌てて予約取り直して、座席希望ももう一回聞いて

 

スペミルはもう間に合わなくて刈谷君に謝ってもらったよ。空港オフィスにあるいちばん良いギブアウェイあげてもらって。最初怒ってた外人も、予約が何とか取れたし、ギブアウェイビジネスクラスのアメニティもらって、ノープロブレムとか言って機嫌よく出て行ったって。今日の便は、サダールまでも サダール以遠のロンドンまでも結構ガラガラだったからよかったけど、満席だったら、大クレームだよ!刈谷君は今日のレポートに入れておくって言ってたから、タンさんには明日には伝わるけどね。基本中の基本だよ!予約取るなんて!バカじゃないの!スペミルは普通のベジタリアンメニューだったから、

 

肉、魚系だけ取り除くことをチーフクルーにお願いしてくれたらしいよ。深刻なダイアベティックとかだったら終わりだよ。すぐに準備出来ないし。ったく。もうっ。」

 

ただひたすら話を聞くだけの杏子。

 

「そこまでやってあげたのに。ありがとうもすみませんも言わずにムスッとしてるんだよ。

 

引き出しとかバンッて閉めたり、物に当たってるんだよ。それこっちがやることだよ。」

 

「明日、タンさんに呼ばれたら、全部説明しなくちゃ。香奈の性格の悪さも言ってやる。

 

私たちみんなまだ試用期間だから、あいつクビにしてもらいたいよ。」

 

「じゃあ、帰ろうか。」

 

勝手に終わられた。

 

まったく、聞き役でしかなかった杏子。

 

これで帰れるならいいか。

 

長くならなくて良かった。

 

頭にはそれしかない杏子だった。

 

 

 

かおりさんと別れた後の電車の中で杏子は妄想した。

 

 

 

以下妄想部分。

 

 

 

「みなさん、ソラリア3分クッキングの時間です。先生今日はどんなお料理ですか?」

 

「今日は野菜のあんかけです。この季節ぴったりですねぇ~。」

 

(中略)

 

「煮立ってきたら、ここで水溶き片栗粉加えま~す。」

 

「これで、とろみがつきますね。」

 

「片栗粉の量に気をつけてくださいね。多すぎるとドロドロになりますから。」

 

「先生多すぎません?」

 

「そんなことないですわよ。あらっ!あらららら~~~~っ!」

 

 

 

妄想終了。

 

 

 

なんだか人間関係とろとろしてきた。

 

たぶん、これからドロドロになるんだろうな...

 

 

 

 

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